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犬の乳腺腫瘍|原因・症状・予防・当院の治療方針まで

1. はじめに
犬の乳腺腫瘍は、犬に最も多い腫瘍のひとつです。
特に中高齢の女の子でよくみられ、早期発見・早期治療がとても重要です。
また、乳腺腫瘍は避妊手術のタイミングによって発生率が大きく変わることが知られてい
ます。
当院では、乳腺腫瘍の予防にも効果的な腹腔鏡手術による低侵襲な避妊手術にも対応して
います。

2. 犬の乳腺腫瘍とは?
乳腺にできる腫瘍の総称で、
・良性:約50%
・悪性:約50%
と、半分近くが悪性(がん)であることが特徴です。
悪性腫瘍は周囲組織へ浸潤したり、肺やリンパ節へ転移することもあります。
6〜12歳の中高齢に多いですが、若い子でも発生することがあります。

3. どんな症状が出る?
● 初期症状
・乳腺のしこり(米粒〜ピンポン玉大)
・単発・多発いずれもあり
・痛みはほとんどなし

● 進行すると
・しこりの増大
・表面が赤くなる、破れて出血する
・炎症による痛み
・脇やそけい部のリンパ節が腫れる
・肺転移による咳

「しこり」は飼い主さんが最も気づきやすいサインです。
月に1回はお腹をやさしく触り、しこりがないかチェックすることをお勧めしています。

4. 乳腺腫瘍の原因
最大のリスク因子は、発情に伴うホルモン変動です。
避妊手術を行った時期により、乳腺腫瘍の発生率は大きく変わります。
● 避妊手術と乳腺腫瘍の発生率
・初回発情前:0.5%
・1回発情後:8%
・2回発情後:26%
発情回数が増えるほどリスクは急増します。
特に初回発情前の避妊手術は、強力な予防効果があります。
遅くても2回目の発情を迎える前(生後1歳前後)には避妊手術を行うことをお勧めします。

5. 予防方法
① 若い時期の避妊手術
乳腺腫瘍の予防には、避妊手術が最も効果的です。
特に初回発情前に手術を行うことで、十分な予防効果が期待できます。
避妊手術と聞くと、
・手術が痛そうでかわいそう
・うちの子は寂しがりなので入院が心配
・全身麻酔が不安
というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。

当院では、痛みが少なく回復が早い腹腔鏡手術での避妊手術が可能です。
従来の開腹手術に比べて
・傷が小さい
・術後の痛みが少ない
・回復が早い
といったメリットがあります。
これらの利点から、腹腔鏡手術では日帰りでの手術も可能です。
(術後の状態によっては一泊入院することがあります。)

※詳しくは「腹腔鏡手術について」をご覧ください。

② 飼い主さまによる乳腺チェック
自宅でも以下を意識することで、早期発見につながります。
・月1回、乳腺(胸〜お腹側)をやさしく触る
・気になるしこりがあれば大きさを記録
・少しでも不安があれば受診

乳腺腫瘍にはステージ分類(進行度)があり、その基準の一つが“腫瘍の大きさ”です。
しこりが大きくなるほどステージが進み、生存期間が短くなる傾向があります。
裏を返せば、
小さいうちに発見し、早期に摘出することで完治が十分に見込める腫瘍でもあります。
避妊をしていないわんちゃんでは特に、定期的な乳腺チェックが重要です。

6. 乳腺腫瘍と診断された場合の流れ
①診察・触診
腫瘍の位置・数・大きさを確認します。
②細胞診
しこりに針を刺し、細胞の形を調べて乳腺腫瘍かどうかを判断します。
③レントゲン・超音波検査
肺やリンパ節への遠隔転移の有無を確認します。
④治療
治療の第一選択は外科手術です。
腫瘍の位置・大きさによって、
・単一腫瘍切除
・領域切除
・片側乳腺全切除
など、適切な方法を選択します。
場合によっては、術後に化学療法(抗炎症薬、分子標的薬、抗がん剤)を行うこともあります。

7. まとめ
・犬の乳腺腫瘍は非常に多い腫瘍
・早期発見と若い時期の避妊手術が重要
・初回発情前の避妊で発生率は 0.5% に低下
・「しこりに気づいたらすぐ受診」が大切
・当院では腹腔鏡を用いた痛みの少ない避妊手術が可能
気になることがあれば、いつでもお気軽にご来院の上、ご相談ください。

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